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「英語よもやま話」2010年
ここには、読者の皆様との交流の場でもある巻頭序言を集めてあります。

●2010年1月【日本三大仇討】

明けましておめでとうございます。「日本三大仇討といいますってェと、『一に富士、二に鷹の羽のぶっ違い、三に上野で花ぞ咲かせる』、この三つが人口に膾炙しているものですな」、と歯切れのよい故古今亭志ん朝師匠の江戸弁が耳に響くような、「志ん朝の風流入門」(古今亭志ん朝・斎藤明著:ちくま文庫)を読んで、これは縁起のよい初夢の譬えとされている『一富士・二鷹・三茄子』と関係があるのでは、と直感的に思いました。

三大仇討の『一に富士』とは、1193年に源頼朝が行った富士の巻狩りの際に、曾我十郎・五郎兄弟が18年間追い求めた父親の仇である工藤祐経を討った事件です。『二に鷹の羽のぶっ違い』とは、1703年に赤穂藩士大石内蔵助良雄以下47人が、主君浅野内匠頭長、浅野家の紋所であることに由来しています。『三に上野で花ぞ咲かせる』は、1630年に渡辺数馬が弟の仇河合又五郎を、姉婿荒木又右衛門の助けを借りて伊賀国上野の鍵屋の辻で討ち取った事件です。

この三大仇討ちの『一富士・二鷹』までは、すんなり入れますが、『三茄子』が、なぜ鍵屋の辻の荒木又右衛門に繋がるか理解に苦しみました。どうやら江戸時代の講談師が、「三に名を成す伊賀の仇討」の「なす」に、無理矢理こじつけたようです。【注1】実際は河合又五郎の他に三名の付人が討たれたに過ぎませんが、講談では三人を倍にして六人にし、更にこれを二乗して六六・三十六人に増やして(笑)、「荒木又右衛門助太刀三十六人斬り」と誇張しているくらいですから。

【注1】『義士銘々伝』

●2010年2月【上野家の家訓】

2008年北京五輪で金メダルを獲得した、日本女子ソフトボールチームのエース上野由岐子さんが、雑誌の対談で「上野家の家訓」について話していました。上野家の子供達は小さい頃から、毎年元旦両親の前で「家訓」を暗唱させられていたので、知らず知らずに「人に言われる前に自分から動く」ようになったそうです。「三つ子の魂百までも」と言いますが、やはり小さい時からの徳育・躾が人格形成に大きな役割を果 たすのですね。言われてせぬのが「人の屑」、という最後の一句が効いています。

進んでするのが「人の上」、
真似してするのが「人の中」、
言われてするのが「人の下」、
言われてせぬのが「人の屑」。

●2010年3月【太陽光発電】

無尽蔵の究極クリーンエネルギー源として期待されているのが、太陽光です。地球に降り注ぐ太陽光は年間12万テラワット(=テラは1兆倍のことです)で、現在人類が必要としているエネルギーは14テラワットなので、およそ8,500倍の量 になります。単純計算すれば120,000÷365日÷24時間=13.6ですから、一時間の日射量 で、全人類が必要とする一年分のエネルギーが賄える計算になります。【注1】

この太陽光を使った発電(ソーラー発電)は年々伸びていますが、その原理はシリコンに代表される半導体の特質によります。即ち半導体は熱や光などの外部要因の変化で半導体内の電子が移動することによって、電気が通 るようになります。ソーラーパネルと呼ばれる家の屋根に設置されたパネル(モジュールと呼びます)は、10cm四方のシリコン板(セルと呼びます)の集合体ですが、ここに太陽光が当たることで、シリコンの上層に電子、下層にホール(穴)が出来、上から下へと回路を繋ぐとそこに電子がホールに向かうことで電流が生じます。この回路の途中に、電化製品を繋げば良いわけです。

太陽光発電の長所は、エネルギー源が太陽の光という無尽蔵なものであり(=石油などの化石燃料の寿命はあと50年と言われています)、かつ発電のために二酸化炭素を出さないので、地球温暖化防止にはもってこいです。また送電ロスが10%と非常に効率が良い点も特記されます。石油や石炭を燃やして発電する火力発電だと、発電所から家庭に届くまでの送電ロスは65%と言われていますから、いかに太陽光発電が効率が良いかわかります。弱点としては曇りや雨の日に発電出来ないことや、起電力が弱く2008年時点で火力発電の1kw当たりのコストが23円に対して、太陽光発電は2倍以上の48円/kwということが上げられますが、技術革新により蓄電能力アップや電力コストの低減は、必ずや実現するでしょう。21世紀の科学技術に期待したいものです。

【注1】雑誌「ニュートン」2009年9月号(図は同紙32頁より引用)

●2010年4月【Amazing Grace】

渋谷の聖ケ丘教会で行われた友人の結婚式に参列しました。

その時歌った賛美歌2編167番「我をも救いし」は、通常「アメイジング・グレイス」として世界中でその美しいメロディーと共に知られています。元歌はアイルランド民謡あるいは黒人霊歌という説ですが、歌詞を書いた18世紀の英国人ジョン・ニュートン(John Newton)の経歴は変わっています。いわゆる「奴隷貿易」の船長だったのです。当時アメリカやヨーロッパに奴隷として拉致されたアフリカ大陸黒人への扱いは家畜以下で、輸送に用いられる船内の衛生環境は劣悪で、ジョンも当然のように黒人を家畜並みに扱っていました。

ある航海中に大嵐に遭遇し、海に呑まれそうな船の中で彼は必死に神に祈ったところ、船は奇跡的に嵐を脱することが出来ました。この出来事以来ジョンは敬虔な信者となり、やがて勉学を重ねて牧師となり神への奉仕の生活に入りました。

この「アメイジング・グレイス」には、自分が黒人奴隷貿易に関わったことに対する深い悔恨と、それにも関わらず赦しを与えた神の愛に対する感謝が込められている、といわれています。

●2010年5月【ココ・シャネル】

「シャネルの真実」(山口昌子著:新潮文庫)を読みました。世界的ブランドの創始者であるココ・シャネル(1883-1971)はフランス・リムーザン地方の教会孤児院で育った不幸な生い立ちで、そこで裁縫を学び、尼僧の服である白と黒、そして教会壁の色であるベージュが、シャネルモードの基本色になったのではないか?という著者の大胆な推理に興味を覚えました。アメリカの雑誌「タイム」(1998年5月)が「二十世紀に最も影響を与えた芸術家20人」の中で、フランス人として選ばれたのは建築家ル・コルビュジェと、いわゆるベルエポック時代(=19世紀末から20世紀初頭)に、「女性が働きやすいシンプルで実用的、着心地が良く無駄 がない服」作りを目指した服飾デザイナー、ココ・シャネルなのです。

首から紐で吊った鋏でジョキジョキ布を裁断し、400人のお針子を指導しながら「本当の服装美学とは感情の正確な表現以外の何物でもない。だからこそ1913年の競馬場で着たスーツが1946年の今日まで着られる」と、シャネルは言ったそうです。小さな帽子店から初めてスーツ、バッグ、香水と事業を広め、CC(ココ・シャネル)というデザイナーブランドマークを自分の作品に入れるようにしたのも、シャネルが嚆矢とされており、事業家としての非凡な才能はあちこちで見受けられます。また華やかな恋愛歴や、若手芸術家の保護者としても知られ、87歳で亡くなったシャネルのマドレーヌ寺院での葬儀には、ファッションモデルやパリの有名人が列をなして並んだそうです。

●2010年6月【ビッグマック指数】

イギリスの経済専門誌『エコノミスト』によって考案された「ビッグマック指数(Big Mac index)」をご存じですか?マクドナルドのハンバーガーは全世界どこでもほぼ同一品質のものが製造販売されるので、原材料費・店舗光熱費、店員賃金など共通 原価構成で単価が決定されるため、総合的な購買力比較指標に使い易く、「ビッグマック一個の価値が世界中どこでも同じとすれば」という仮定で、各国の通 貨購買力を比較したものです。 2009年2月時点で日本ではビッグマック一個が290円。アメリカでは3.54ドルだそうですから、290/3.54=81.9なり、1ドル=82円がビッグマック指数による円ドル為替レートとなります。しかし実際の為替レートは1ドル89.8円でしたので、為替相場はビッグマック指数に比べて円安ドル高であり、この後82円に向けて円高が進むだろう、と予想するそうです。エコノミスト誌(2009/02/04)によると、ビッグマック指数は以下の通 りです。

(A)
(B)=(A)/(D)
(C)=(A)/(K)
(D)
(E)=(C)-(D)
一個の価格
ドル換算価格
マック指数
現実レート
購買差
アメリカ 3.54ドル=(K)
3.54ドル
日本 290円
3.23ドル
81.90
89.80
-7.90
ロシア 62ルーブル
1.73ドル
17.50
35.70
-18.20
スイス 6.50 スイスフラン
5.60ドル
1.84
1.16
+0.68

価格購買差がマイナス表示になるのは通 貨が過小評価されているということで、ロシアではビッグマック一個が62ルーブルで、現実為替交換レートの1ドル=35.7ルーブルで換算すると一個1.73ドルとなります。アメリカでは一個3.54ドルで買えるわけですから、本来なら62/3.54=17.5となり、1ドル=17.5ルーブルで良いはずなのに、半分以下にしか評価されていないことになります。

●2010年7月【盆暮れのご挨拶】

オーディオフアンならお馴染みのBOSE社日本支社長を、30年勤めた佐倉住嘉(さくらすみよし)さんは、運には二種類あり、自分で開発出来ない運を「ツキ」と呼び、自分で開発出来る運を「巡り合わせ」と定義しています。付き合う人がもたらす「巡り合わせ」は、有意義な情報として入って来て運をもたらします。佐倉さんは巡り合わせを大切にするため、毎年中元と歳暮を200人に送っていますが、必ずユーモラスな挨拶文を添えています。いくつかご紹介しましょう。【「ご挨拶」(佐倉住嘉著:文藝春秋社)】

■拝啓 いきなりド炎夏、日本コロンビアさんみたいな季節の変わりようです。お元気にご活躍のことと、謹んで中元のご挨拶を申し上げます。
■拝啓 山一証券が潰れようが、クリントンの浮気が露見しようが、お天道様は毎日昇って、年の瀬は必ずやって来るものでございます。ご貴台には変わらぬ ご健勝、大慶に存じ上げます。
■拝啓 冷夏です。米は出来ない、エアコンは売れない、ボーナスは出ない、カミさんは不機嫌の構図が出来上がってしまいます。
■拝啓 まばたきをする間にまた年末になりました。年齢(トシ)と共に時の流れが加速するのは、アインシュタインさんのせいなのでしょうか。ご貴台様にはアインシュタインとは無関係に、ご清栄の毎日と拝察いたします。
■手違いが発生し、年内納入予定が間に合わなくなりました。間違いと外れは嫁さんだけでござらぬ のが世の常と思し召し、何卒ご勘弁くださいますよう、平にお願い申し上げます。

まさしく抱腹絶倒。なるほど、盆暮れの季節になると誰もがそれを読みたくて待ち受けていた、というのが、よく判ります。質の高いユーモアは、心のゆとりを感じさせます。

●2010年8月【相撲協会の珍(?)決まり手】

底なしの広がりを見せる力士・親方の賭博問題と、その根っこにある暴力団との昔からの『がっぷり四つ』の深い関係は、相撲協会武蔵川理事長が「とことん膿を出し切る」と言っていますが、外部有識者の理事長代理による名古屋場所開催、NHKのTV中継中止、天皇杯授与中止という深刻な事態を、本気で『押し出し』【注1】しようとしている、とはとても思えません。

賭博関与を自主申告した65人の氏名を『小手先ひねり』で公表したり、「金額の大小や賭博習慣年数が、社会的に容認できるかどうかを仕分けする」、と歯切れが悪い『肩すかし』対応です。3年前に弟子への集団暴行事件を、証拠『とったり』で隠蔽しようとした事件や、2年前の力士大麻騒動時に「一斉検査した結果 はシロ」、と『ちょん掛け』発表でうやむやにした時、今年1月本場所中泥酔暴行事件の朝青龍を、『素首落とし』で無理矢理辞任させた時と同じく、世間常識とは懸け離れ、自己保身のために責任逃れ『送り出し』に終始する相撲協会の体質は変わらないのだと、つくづく思います。

相撲は伝統有る国技で他のスポーツ世界とは違うという思い上がりと甘えはやめて、「国技」と名乗ることを返上したらどうでしょうか?そもそも相撲が「国技」と呼ばれるようになったのは、明治末期に相撲常設小屋が出来た時、「国技館」と名付けられたことが起源だからだそうですけど…。【注2】

【注1】「押し出し」、「ちょん掛け」などの相撲「決まり手」(『太字』表記。『がっぷり四つ』は対戦力士がしっかり組み合うこと)は「大相撲情報局サイト」参照。 http://sumo.goo.ne.jp/kimarite/index.html

【注2】ウイキペディアには「国の機関によって相撲が正式に日本の国技と認められたことはない」と、書かれている。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E6%8A%80

●2010年9月【天下り】

「天下り(あまくだり)」は公務員改革の上で避けて通 れない問題ですが、いつも既得権確保に長けた官僚達に巧みにごまかされ規制法案は骨抜きにされています。

「天下り」とは、神道用語で神が天界から地上に下ること(=天孫降臨)、即ち「天降る」から転じた言葉で、現在では退職した高級官僚が、関連する民間企業や独立行政法人などの高い職に就く事を指して批判的に用いられます。官僚達が「神」で「下々」の民間に降ってやるという、「官尊民卑」の考えがよく現れています。

天下りの最大の問題は、各官庁が天下り先の確保を利権とみなし第一目的にしてしまっている点です。つまり天下り先を確保するために民間企業と不適切に癒着したり(=防衛庁、林野庁汚職)、退職官僚の受け皿事業として必要もない施設を作ったりして(=グリーンピア問題)、結果 として国民を軽視して不公正な行政を行い、不必要な事業に支出して国や地方自治体の財政を圧迫してしまうことです。この悪しき慣習を抜本改革せずに増え続ける国家債務を解消することは不可能です。

「天下り」は英語でどう表現すればよいでしょうか。英字新聞(2008/05/30 Japan Times)には次の通り説明されていました。"Amakudari" is the practice whereby bureaucrats retire into lucrative posts in industries they had overseen.(天下りとは、役人が自分で監督してきた産業部門の会社のうまみのあるポストを得て退職するという慣習のことを言う)

●2010年10月【新蕎麦】

今年も新蕎麦の季節がやって来ました。

つなぎの小麦粉を用いず100%蕎麦粉だけでつくる「生粉打ち蕎麦」(十割蕎麦)は、特に新蕎麦の時は色鮮やかな緑色で噛むと甘みを感じ、香りが際立ってます。蕎麦の蛋白質は必須アミノ酸を豊富に含み、穀物として優秀な栄養価をもっており特有な成分であるルチンは、人体に対して血管収縮作用・毛細血管の透過抑制作用に効果 があり、脳出血などの予防に効果があるといわれています。

なぜ「ソバ」と呼ばれるようになったかと言うと、ソバの実が尖っていることから物の角を意味する「綾」(そば)から来ているそうで、現在の様に線状に切断して麺の形として茹でて食べるようになったのは、江戸時代に「そば切り」として登場してからのことだそうです。

落語「時そば」に見られるような粋な食べ方と野暮な食べ方、「夜泣き蕎麦」の語源となった岡場所の女郎と屋台蕎麦屋の話など、江戸庶民文化と蕎麦は切っても切れない関係でした。「信州信濃の新蕎麦よりも、わたしゃあなたのソバがいい」という都々逸もありますが、わたしゃ今の時季は新蕎麦の方がいいですなぁ〜。(笑)

●2010年11月【隅田川に架かる橋】

東京の下町を流れる隅田川には、特徴ある異なるデザインの橋が幾つも架かっています。【注1】

勝鬨橋
清洲橋

江戸時代は幕府の江戸城防備政策のため架は制限され、人々は渡し舟によって渡河していました。明治時代になり交通 量の増加に伴い木造架橋が進み、関東大震災 (1923年)で多くの橋が崩壊したため鉄橋に架け替えられました。−と昔地理の授業で教わったのですが、実は国際政治と軍需産業の発展とも関連していたのです。

1922年にワ シントン海軍軍縮条約【注2】が結ばれ、軍艦製造が制限されて造船会社が干上がってしまったので、その救済策として隅田川橋梁設計・施工を造船所に回した−という国策事情が有ったようです。

永代橋、清洲橋、白髭橋は川崎造船所、厩橋は浅野造船所、勝鬨橋、両国橋、蔵前橋は石川島造船所に発注が下りたそうで、当然のことながらこれらの会社には退役海軍軍人が天下りしたようです。【注3】

【注1】「隅田川にかかる橋」
【注2】ワシントン海軍軍縮条約:アメリカ、イギリス日本の主力軍艦の比率を5:5:3に制限した条約
【注3】「零戦と戦艦大和」(文藝春秋 2008年6月号)

●2010年12月 【トドのつまり】

What does a polite lamb say to his mother? Thank Ewe.(礼儀正しい子羊は母羊に対してどう挨拶しますか? サンキュー)というジョークがあります。Thank you とThank Ewe(雌羊)の掛け言葉です。羊は集合名詞ではsheep、雄羊はram、雌羊はewe、子羊はlambと言います。また成長した羊の肉はmuttonですが子羊の肉はlambです。

この様にひとつの動物に対していくつもの単語があるのは、その動物がその言語を喋る国民の生活に深く関わっているからです。英語の同様な例は馬にも見られます。一般 的な集合名詞はhorseですが、雄馬はstallion、雌馬はmare、雄の仔馬はcolt、雌の仔馬はfillyとしっかり分けられているのは、やはり狩猟民族だからでしょうか。

一方農耕漁労民族の言語である日本語には出世魚という言い方がありますが、スズキとボラの出世魚名はご存じですか?「つまるところ、結局は」を意味する「とどのつまり」は、このボラの最終成魚名であるトドから来ています。
(スズキ)セイゴ → フッコ → スズキ → オオタロウ
(ボラ) オボコ → スバシリ → イナ → ボラ → トド

今年も「とどのつまり」になったようです。来年も良い年でありますように。



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