●Kazさんのページ

「英語よもやま話」2013年
ここには、読者の皆様との交流の場でもある巻頭序言を集めてあります。

●2013年1月【日本人の宗教観】

明けましておめでとうございます。

初詣は神社に、葬式はお寺で、結婚式はキリスト教会で行いながら、新居を建てる時には地鎮祭を行うという、異なった宗旨を使い分けることに対して日本人は違和感を感じません。

日本文学に詳しいドナルド・キーン氏は、「生まれた時は神道で、普段の生活は儒教道徳で、死ぬ時は仏教の法事を行う。神道では現世が大切で死んでからは黄泉(よみ)という暗黒世界へ行く。反対に仏教はこの世は娑婆でありあの世が浄土である。また儒教はこの世の中以外に世の中はない。三つの矛盾しあった宗教を同時に信じられる日本人は、大したものだ」【注1】と述べていますが、古来日本では万物に神が宿るという「八百万(やおろず)の神」を崇める、独特の宗教観を持っていたからだと思います。

唯一無二の「絶対神」という原理主義にとらわれず、その時々の情勢に応じて「融通無碍・便宜主義」で対応してきた結果、日本人の宗教観は「初詣もクリスマスもOK」という現実となっているわけで、ヤハウェやアッラーしか信じないキリスト教徒やイスラム教徒にとっては、不可解な信仰心だと思えるでしょうね。

【注1】「日本人と日本文化」(司馬遼太郎・ドナルド・キーン著:中公新書)

●2013年2月【ブルゴーニュ利き酒騎士団】

昨年12月「ブルゴーニュ利き酒騎士団」会員であるFさんからご招待いただき、東京の明治記念館で開かれた同会のクリスマスパーティに参加させてもらいました。

ブルゴーニュ利き酒騎士団(La Confrerie des Chevaliers du Tastevin)とは、フランス・ブルゴーニュ地方の食とワイン文化に貢献した人々が会員になれる慈善団体で、1934年に創立されました。この会に入会するためには会員2名の推挙と書類審査が必要で、ブルゴーニュのクロ・ド・ヴージョで毎年開催される叙任式を経て、正式な会員になることが出来ます。現在フランスを中心に世界中に約12,000名の会員がいますが、日本人会員は80名程度という「狭き門」だと聞いています。

この会のモットーは、Jamis en vain, Toujours en vin.(ワインあれば憂いなし)で、クリスマスパーティでは、フランス本部からやって来た理事長のユーモアたっぷりの挨拶に、日本支部代表の磯村尚徳氏(元NHKキャスター)が、フランス語で長目の答辞を送っていました。その後はブルゴーニュ男性合唱隊の陽気なハーモニーに乗せられ、次々と運ばれるブルゴーニュワインを空けながら、延々と食べ・飲み・歌い続けました。

●2013年3月【尖閣諸島問題】

現在尖閣諸島問題で中国の強引さに押されっぱなしの日本ですが、明治時代には日本が日清戦争(1894年)戦勝国として中国(当時は清国)と堂々と渡り合い、下関条約で中国に次の要求を認めさせました。(1)清国による朝鮮への内政干渉が戦争の原因となったのだから、今後朝鮮を完全な独立国として認める、(2)清国は、遼東半島、台湾、澎湖諸島を永遠に日本に譲渡する。(後にいわゆる三国干渉でドイツ、フランス、ロシアからの圧力で遼東半島・澎湖諸島は清国に返還)、(3)清国は日本に対して賠償金2億テール(現在の貨幣価値で8,950億円)を支払う。

この歴史的事実を思い出して、毅然と日本の国土である尖閣諸島を守るべきです。中国は1968年の海洋調査後突然「尖閣諸島近辺の大陸棚は揚子江の堆積による」と、一方的に領土権を主張し、2012年11月に楊外相がラオスで「中国は600年前の明代から、釣魚島(=尖閣諸島)を支配している」と平気で史実をねじ曲げる発言しています。

しかし長崎純心大の石井望准教授の調査によれば中国明朝の「皇明實録」(1617年)には、福建省の海防担当者であった韓仲雍(かんちゅうよう)が、海防対象海域を福建省沖合の東湧島(現在の台湾馬祖列島東引島)までと定め、『この外の溟渤(=東側の海)は華夷(=中国と諸外国)の共にする所なり』と記しているそうです。石井准教授は「『華夷の共にする所なり』とは、各国の船が自由往来出来る場所という意味であり、明らかに明の領土ではないことになる」と指摘しています。
【2013/01/22 産経新聞】

●2013年4月【コロンブスの卵】

産経新聞コラム(2013/03/03)に「コロンブスの卵」と題した一文が載っていましたが、まさにその通りだと膝を打ちました。そのまま引用します。

新大陸を発見したクリストファー・コロンブスはスペインに帰り、ある宴席に出席した。彼の成功を賞賛する人もいる半面、「そんなことは誰にでも出来る」という人もいた。それを聞いたコロンブスは卓上の卵を取り、「これを立ててみよ」と切り出した。誰も出来ないのを確認して、卵の先を軽く潰して立ててみせた。「そんなことなら、わけはない」という一同に対して「他人がやった後なら、何でもたやすい」と語ったとされる。

他人の成功をけなしたい気持ちは誰でも潜んでいる。だが民主党政権で外相まで務めた玄葉光一郎氏が安倍首相とオバマ米大統領との首脳会談で、TPP交渉参加問題をめぐり両首脳が認め合った「関税撤廃例外」について「当たり前だ」と決めつけ、自分が外相時代に米側と交渉したと胸を張って、安倍首相の手柄でも何でもないと言わんばかりだった。しかし外相レベルで口にするのと、首脳同士が共同声明を出すことでは重みが全く違う。それを「そんなことなら俺達にも出来た」というのなら、まさしく「コロンブスの卵」になってしまう。安部首相に「政治は結果だ」と一蹴されたのは仕方あるまい。どうせなら「国益のために、首相は一歩前に進めてくれて良かった」と素直に認めれば、玄葉氏の評価はまた違ってきたはずである。

●2013年5月【考えれば実現する】

保守的かつ強硬なその性格から「鉄の女(Iron Lady)」と異名を取った、元英国首相マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)が語った「考えれば実現する」という、演説です。
【マーガレット・サッチャー元首相は2013年4月8日、87歳で逝去されました。】

  • Watch your thoughts, for they become words.
    考えに気をつければ言葉になる。
  • Watch your words, for they become actions.
    言葉に気をつければ行動になる。
  • Watch your actions, for they become habits.
    行動に気をつければ習慣になる。
  • Watch your habits, for they become character.
    習慣に気をつければ人格になる。
  • Watch your character, for it becomes your destiny.
    人格に気をつければ運命となる。
  • Thus what we think, we become.
    だから考えれば実現する。

●2013年6月【芭蕉庵】

俳聖松尾芭蕉は、延宝年間(1670〜80年代)に江戸の神田上水の改修工事に係わったことで知られ、その時芭蕉が住んだ家が関口芭蕉庵(せきぐちばしょうあん)という史跡として、東京都文京区に残っています。神田川に沿って下流を歩くと、目白の椿山荘近くにある「駒形橋」のすぐ近くです。

芭蕉庵前の坂の下には「水神社」の祠があり、敷地内庭園には瓢箪池が設置され、風情のある植木が順路に沿って植えられています。かつて庭には安藤広重の浮世絵「名所江戸百景」にも描かれた「五月雨の松」という、推定樹齢700年の巨松があったそうですが、昭和30年代に枯れてしまったそうです。

芭蕉はこの庵の目の前に広がる早稲田田んぼを琵琶湖に見立ててその風光を愛したことから、没後の1750年に弟子達が遺吟「五月雨に隠れぬものや瀬田の橋」の芭蕉真筆を、遺骨代わりに敷地内の「さみだれ塚」に埋めたそうです。また奥の芭蕉堂には、芭蕉とその高弟四人(宝井其角、服部嵐雪、向井去来、内藤丈草)の像が安置されています。

また昭和48年芭蕉翁二百八十回忌を期して、有名な『古池や蛙飛び込む水の音』という俳句の碑が、新たに建てられました。

●2013年7月【世界で最も影響力がある100人】

アメリカの雑誌TIMEは、"The 100 most influential people in the world"(世界で最も影響力のある100人)を毎年選んで発表しています。今年はオバマ大統領、フランシス・ローマ法皇、YAHOO社長(CEO)のマリッサ・メイヤー、映画監督のスピールバーグなどに伍して、UNIQLOの柳井正社長が選ばれていました。(TIME誌2013/04/29号) これらの人々の人柄・業績を表す形容詞を読むと、なかなか興味深いものがあります。

マリッサ・メイヤー(Marissa Ann Mayer:写真)= A most influential female CEO in the world, a trailblazer(世界で最も影響力のある女性経営者で、新分野の開拓者)

スティーブン・スピールバーグ(Steven Spielberg)= What other director in the history of cinema has given us such a range of indelible films, Jaws, E.T, and Schindler's List?(ジョーズ、E.T.、シンドラーのリストなど、幅広い分野で忘れられない映画を撮り続けている映画監督)

フランシス・ローマ法皇(Pope Francis)= A simple, uncomplicated, sincere shepherd, like Jesus (キリストの様に、簡潔でわかりやすい真の神の子羊)

柳井正(Tadashi Yanai)= An inspirational leader, purveyor of cheerful chic(楽しく粋な商品を調達する、閃きのあるリーダー)

金正恩(Kim Jong Un) = A chutzpah, warmonger and tin-pot dictator(厚かましい戦争挑発屋で安物の独裁者)

●2013年8月【美智子皇后の英訳詩】

美智子皇后様が詩人まど・みちおさんの詩集を英訳され、出版されました。【注1】
詩の翻訳は詩人の感性に翻訳者の感性を添わせ、詩人のリズム感を生かしつつ、訳詞はまた訳詞として、一貫して訳された言語の持つリズムを保つことが必要とされる難しい作業です。皇后様の聖心女子学院中等科時代の後輩である島多代さんは、「歌人として言葉一つに託される想いが非常に深い」皇后様に「翻訳料なし」でお願いし【注2】、原詩の音とイメージになるべく忠実に、そして子供にもわかる平易な英語に訳してもらったそうです。

さくらのはな A cherry petal
えだを はなれて 
ひとひら
A cherry petal
Left the branch
さくらの はなびらが
じめんに たどりついた
Drifted a while
And reached the ground
いま おわったのだ
そして はじまったのだ
An end
And a beginning
ひとつの ことが
さくらに とって
Of a simple history−
For the petal
いや ちきゅうに とって
うちゅうに とって
Nay, for the earth
For the universe
あたりまえすぎる
ひとつの ことが
A simple story
So ordinary
かけがえのない
ひとつの ことが
Yet
So irreplaceable

【注1】「Rainbow にじ」「Eraser けしゴム」(文藝春秋社)
【注2】「美智子さま英訳詩の深いまなざし」(文芸春秋2013年7月号)

●2013年9月【落語と英語のジョーク】

古今亭志ん朝写真集「志ん朝の高座」(写真:横井洋司・文:京須偕充分:筑摩書房)を買って、落語「試し酒」の速記記録を読んでいたら、オチが、アイルランド人の酔っ払いジョークと全く同じなので、あぁ、笑いのポイントは洋の東西を問わないのだなぁ、と改めて思いました。

「試し酒」:近江屋の旦那が大酒飲みの下男を連れて、別の大店に行った時その大店の主人が近江屋の下男は底なしの酒飲みと聞いたので、五升一気飲み出来たら小遣いをやろうと言い出す。近江屋の下男は「ちょっと考えさせてくれ」と表に出て、暫くして戻って来ると「やってみます」と五升一気飲みに挑戦する。最後は朦朧となりながらも一滴も残さず五升の酒を飲み干したので、大店の主人が「恐れ入ったぁ、さぁさぁ、これが約束のご褒美だよ」と小遣いを渡してから尋ねる。「お前さん、さっき考えさせてくれと表に出ていったけど、神様に願でもかけにいったのか?」下男の答えは「そうじゃねぇだす。おれぁ今まで五升まとめて飲んだことがねぇんで、飲めるかどうか、表の酒屋で試しに五升飲んできただぁ〜」

「ギネスビールの一気飲み」(20 pints of Guinness in a row):アイルランドのパブにやって来たアメリカ人が「20杯のギネスビールを、一滴もこぼさずに一気に飲んだ最初の男に100ドルやるぞ!」と叫ぶと、小柄なアイルランド人が「俺がやってみよう。でも、その前に10分間だけ猶予を欲しい。10分後に戻ってきてから挑戦してみるから」と挑戦に応じ、10分後に戻ってきたアイルランド人は、一滴のビールをこぼすこともなく20杯のギネスビールを飲み干した。度肝を抜かれたアメリカ人が100ドルを渡して、「ここで飲む前の10分間、何をしていたのか?」と尋ねた。ゲップをしながらアイルランド人が答た。"I went to the pub across the street to see if I could do it."(この店の向かいにあるパブに行ってね、一気に飲めるかどうか試していたんだ)

●2013年10月【夜明けのスキャット】

1969年当時の日本の歌謡曲を由紀さおりさんが歌い、アメリカのジャズオーケストラバンド「ピンク・マルティーニ」がバックで演奏したアルバム「1969」が欧米のヒットチャートで上位にランクされたのは2011年のことでした。日本の歌が海外のヒットチャートを賑わせたのは、50年前に坂本九さんの「SUKIYAKI」以来のことです。私も二年前に早速購入して、懐かしい「夜明けのスキャット」や「ブルーライトヨコハマ」などを懐かしく聴きましたが、アルバムの中にはボサノバの名曲「マッシュケナダ」や、フォークソングの代表曲「パフ」を日本語で歌ったものも入っており、当時のことを懐かしく思い出しました。

文藝春秋随筆欄(2013年2月)で、由紀さおりさん自身がこのアルバムについてこう語っていました。

デビュー40周年を前に「もう一度歌謡曲を歌いたい」、という思いを募らせていました。なぜなら21世紀にも歌謡曲は絶対あって欲しいと思うからです。今は音楽をリズムや映像でキャッチする時代です。手をつないだり、抱きしめたりという直接的な歌もいいけれど、銀座の通りを歩く女の哀しみを代弁するような大人の歌があっていい。歌詞の裏側で何かを想像し、自分で世界観を作っていくような音楽、私はそれが歌謡曲だと思っているので。ビートの効いたインパクトの強い音楽が主流の時代に、「1969」がヒットしたのは、美しいメロディを持つ日本の歌謡曲が新鮮だったのではないでしょうか。"言霊"とでもいいましょうか、サウンドにのった感情表現は言葉が違っても通じるもの。歌っているうちにどんどんお客様とひとつになる感覚を味わえる外国でのステージを経験し、私はそう確信しました。(写真は由紀さおりさんの公式ブログ掲載のものです)

●2013年11月【明治のサーカス芸人】

「明治のサーカス芸人はなぜロシアに消えたのか」(大島幹雄:祥伝社)を読んで、幕末から明治初期にかけて日本人の軽業師や曲芸師達が、海を渡ってロシアやフランスなどヨーロッパ各地でサーカス興業を行っており評判が高かったことを知って驚きました。

著者が旧ソ連時代末期(1988年)にモスクワで、「ロシア革命(1905年)以前やって来た日本のサーカス芸人で、革命後もロシアに残りました」と見せられたのが右の三枚の写真でした。この写真を頼りにイシヤマ、タカシマ、シマダという三人の芸人の足跡を追ったのがこの本です。

イシヤマは「ハラキリショー」(=観客の目の前で切腹の真似事をして血だらけになる残酷なショー)で有名になった「ヤマダサーカス」のブランコ乗りで、ロシア人女性と結婚し、その息子も孫もソ連でサーカス芸人になりました。タカシマは撥(ばち)や鞠を使った大神楽仕込みのジャグラーで、ロシア革命後もソ連各地で人気を保ち、彼の地に葬られています。そしてシマダは7mの棒の先に子供を乗せたまま垂直の梯子を上り、そこから日本の鉄線の上を歩き、最後は棒の先の子供が倒立をするという、究極のバランス芸でロシア人の度肝を抜いたそうです。ところがこの天才軽業師シマダは、1942年にスパイ容疑で粛正されてしまうという数奇な運命を辿ります。明治時代の日本人はブラジル、アメリカ、ペルーなどに移民しただけでなく、芸人としてヨーロッパで活躍するなど、まさに海外に雄飛していたのですね。

●2013年12月【X-masの語源】

12月になると日本では"X-masバーゲンセール!"や"X-masケーキ特売!"など、X-masを使った宣伝文句が目立ちます。キリスト(Christ)のミサ(mass:聖なる儀式)であるChristmas(クリスマス)をなぜX-masと表記するのか不思議に思って調べてみたら、ギリシャ語が語源だったのですね。

"X" isn't Latin "X," but it is the Greek letter χ(kai). Christ is spelled Χ ΡΙΣΤΟΣ (kai-rho-iota-sigma-tau-omicron-sigma) in Greek. Christmas means the Mass of Christ and Mass is spelled μαΣ(mu-alpha-sigma) in Greek. So the abbreviation X-mas for Christmas derives from s Greek word.

"X"はラテン語のX(エックス)ではなく、ギリシャ文字のχ(カイ)である。キリスト(Christ)はギリシャ語ではΧΡΙΣΤΟΣ(カイ/ロ/イオタ/シグマ/タウ/オミクロン/シグマ)と綴られる。クリスマスはキリストのミサを意味するが、このミサはギリシャ語ではμαΣ(ミュー/アルファ/シグマ)と綴られる。そこでChristmasの略語であるX-masはギリシャ語のχ(カイ)が語源なのである。
【参考文献】 Oxford Advanced Learner's Dictionary


*

巻頭序言集
20022003200420052006
20072008200920102011
2012・2013・201420152016
2017・2018・2019・2020・2021

*